-青山祐介
2010年代半ば頃から日本でも社会実装への取り組みが始まったドローン。
マルチコプターに小型のカメラを搭載して、写真や動画を撮影する“空飛ぶカメラ”として、産業分野ではドローンの利用が始まりました。
当初は趣味であったり、映画やCM、テレビ番組といった商業用途の映像撮影に使われることが多かったドローンですが、この“映像を撮影できる”ことを応用する形で、さまざまな産業用途で利用されています。
点検分野では空中だけでなく屋内や狭所、地下までドローンが飛ぶ
ドローンがいち早く産業分野で使われるようになったのは測量分野です。
それまで航空機で行っていた空中写真測量にドローンを用いることで、コストを抑え、利用するハードルを下げることが可能となりました。
ドローンに搭載したカメラで地表面を撮影し、その写真を組み合わせてオルソ画像を作成し、地図や図面を作るドローンによる写真測量は、土木建設現場において、施工前の現況や、起工後の進捗、完成後の出来形などを記録するのに使われています。
また、近年は地球温暖化の影響もあってか、各地で風水害による災害が発生していますが、土砂崩れをはじめとした被災地において、迅速に復旧するための調査の一環としてドローンが使われることも少なくありません。
こうした、被災地におけるドローン測量は、危険な現場に人が立ち入ることなく測量ができるというメリットがあるからです。
もうひとつ、大きな広がりを見せている用途が点検です。
橋やダム、送電網の送電線や鉄塔、太陽光発電所のソーラーパネル、携帯電話基地局鉄塔、工場やプラントの煙突や蒸留塔、大型タンク、パイプライン、排気ダクトといった製造設備、ビルなど高層建築の外壁、風力発電所の風車など、その産業分野と対象物は大きく広がりを見せています。
こうしたドローンによる点検対象に共通しているのは、高い場所にあるということです。
高所点検には、高所作業車や橋梁点検車を使ったりするほか、構造物を取り囲むように足場を設置したり、ゴンドラやロープで人が吊るされる形で点検をするしかありませんでした。
そのためには長い期間、施設の稼働や道路の交通を止める必要があるほか、大きなコストがかかります。しかし、ドローンを使うことで従来の工法より比較的簡単に、コストを抑えた点検を行うことができます。
また、ドローンは大空高く飛ぶもの、として知られています。
しかし、近年は屋内や狭い空間で点検や巡視といった用途でも使われ始めています。
屋内や狭い空間を飛行する場合、一般的なドローンが自機の位置を制御するために使うGPSに代表されるGNSSの電波を受信できません。
そこで、ドローンのカメラが撮影した映像から一時的な立体地図を作り、その疑似空間の中で自機の位置を制御するというビジュアルSLAM(スラム)や、レーザー光線を周囲に放ってやはり地図を作るレーザーSLAMを使って飛行させるという技術が用いられています。
また、ビルなどの天井裏や地下ピット、上下水道管といった極めて狭い空間の点検には、より小型で設備に接触しても対象物を傷めない、専用のドローンが開発されています。
このように、ドローンが大空ではなく屋内空間を飛べるようになったことで、巡回・巡視といった用途にもドローンが用いられるようになってきました。
特に「ドローンポート」「ドック」と呼ばれる、ドローンの離着陸場所と格納庫を兼ねた装置が登場したことで、遠隔地からドローンを運航したり、定期的にドローンを離陸させて、商業施設や倉庫、工場内でドローンを巡回させる使い方が始まっています。
このドローンポートは、ドローンが着陸すると、自動でバッテリーを充電したり、交換するほか、ドローンが撮影したデータを取得して、インターネット経由で遠隔地のサーバーなどに送るといったことができます。
重い荷物を運べるドローンを使ったサービスが拡大中
ドローンの役割のひとつが“撮影する”“データを取得する”といったものだとすると、もうひとつの役割が“モノを運ぶ”“モノを届ける”という、運搬・物流の用途です。
モノを運ぶ、という用途でいち早く取り組みが始まったのが農薬散布です。
もともと、航空機のヘリコプターや、ラジコンのヘリコプターで行われてきた農薬の空中散布ですが、やはり2010年代半ばからはドローンがその役割を担うようになってきています。
ドローンに数リットルから数十リットルの液剤や粒剤のタンクを搭載し、ドローンが農地の上空を飛行しながら農薬や肥料を散布します。この農薬散布用のドローンは年々大型化しており、最近は40リットルのタンクを備えたものも登場しています。
また、こうした大型のドローンの技術を応用する形で、短距離ながら重い荷物を運搬するという使われ方も始まっています。
林業で苗木の束を山の麓から植林する中腹まで運ぶほか、高圧送電線の鉄塔の保守で、交換用の碍子(がいし)や塗料の缶を、麓から山の上に立つ鉄塔まで運ぶといった用途です。
この運搬用途のドローンは、農薬散布用ドローンのペイロード(積載重量)の拡大とともに大型化しており、近年は30~70キログラムのものを運べるドローンが続々と登場しています。
さらに、この“モノを運ぶ”用途で、その飛行距離を伸ばし、日用品や食料、医薬品といった少量のものを、届ける物流用途でもドローンの利用が広がっています。
こうした物流用途のドローンは、携帯電話の通信機能を搭載し、インターネット経由で離れた場所からパソコン上のソフトウェアで制御し、もっぱら自動飛行で運航されています。
近年は人口減少により商業地が縮小して買い物難民となった人たちや、自家用車が使えず同時に公共交通機関の縮小によって、移動が不自由になった地方の過疎地の住民のために、自治体や民間企業がドローンによる配送サービスを始めています。
現時点ではまた試行的な取り組みだといえますが、物流用途などの飛行のハードルを下げる“レベル3.5”飛行を認めるなど、国もドローン物流を後押ししています。
能登半島地震の現場でドローンが物資輸送や捜索に使われる
このほか、ドローンは防災や人の暮らしを守るためにも使われています。
例えば、最近は北海道や東北地方で野生のクマが人の暮らすエリアに出没し、人を死傷させる事故が増えていますが、こうしたクマの行動や生息地を把握するのに、赤外線カメラを搭載したドローンが使われています。
この技術はクマに限らず、農作物を荒らす野生のイノシシやシカといった害獣とされる動物の生態を把握することにも役立っています。
また、近年は消防や警察といった公共機関でもドローンの利用が始まっています。特に消防では火災や救助の現場で、状況把握や人の捜索といった活動にドローンが有効です。
そのため、全国の消防機関に消防資機材のひとつとしてドローンの配備が進められています。
また、国土交通省の地方整備局では、大規模災害時に土砂崩れなどで道路の寸断、堤防の決壊といった状況把握にドローンを使用。やはり、全国の地方整備局のTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)にドローンやドローンの運航を担う人員が配備されています。
こうした防災面でドローンが大規模災害において活用されたのが、2024年1月1日に発生した能登半島地震でした。発災直後から現地に入った消防、警察、自衛隊をはじめとする防災関係機関が、さまざまな現場でドローンを活用したと報じられています。
同時に、発災後数日で民間のドローン事業者が被災地自治体の要請に応じる形で全国から参集し、孤立した集落に医薬品を届けたり、半島各地で崩壊した道路の被災状況を確認したり、倒壊した家屋の内部の状況把握を行ったりしました。
今後、さらに国を挙げてドローン技術の開発を支援
2010年代半ば頃からさまざまな分野でドローンを利活用する取り組みが始まり、コロナ禍を経て、2023年頃から本格的にドローンの社会実装が始まっています。
点検分野では石油化学や土木建築、発送電、通信といった産業分野の大手企業が、相次いでドローンを使った点検に取り組み始めたことを発表。
また、物流分野でも大手物流事業者が、物流のラストワンマイルの手段としてドローンを使った取り組みを始めています。
さらにこうした社会実装の動きを踏まえ、政府もデジタルライフライン全国総合整備計画の中で、全国にドローン航路を整備するプロジェクトを発表。
また、行政ニーズに対応したドローンの開発や、鉄道施設の維持管理を担うドローンを使った技術開発など、数多くのドローン技術の開発プロジェクトに政府が補助金を拠出するなど、今後、国を挙げて日本のドローンや関連ソリューションンの開発を支援していく見込みです。